ベクトルの一次独立(「線型独立」ともいう)とは、一言でいうと「空間における基底ベクトルがすべてゼロベクトルではなく、平行関係にない状態」のことです。
このページでは、これが一体何を表しているのかを、誰でも絶対にわかるように、アニメーションを用いて明快に解説していきます。読み終わる頃には、間違いなく、ベクトルの一次独立について理解できるようになっていますので、ぜひ読み進めて頂ければと思います。
先に読んでおきたいページ
ベクトルの一次独立を理解するには、先に「線形結合」という考え方を理解しておく必要があります。これについては『線形結合とは何か?アニメーション付きで誰でもわかるように解説』で解説しているので、ぜひご確認ください。
1. ベクトルの一次独立とは何か?
まずは、「ベクトルが一次独立している」とはどういうことかを、アニメーションを使って幾何学的に解説します。この解説をご覧頂くと、明快に理解することができます。それでは始めましょう。
2次元空間における一次独立
前回のページ『線形結合とは何か?アニメーション付きで誰でもわかるように解説』では、任意のベクトル \(\vec{a}\) を、基底ベクトル \(\vec{v}\) と \(\vec{w}\) のペアを使って、\(\vec{a}=x\vec{v}+y\vec{w}\) で示すことが可能なとき、「ベクトル \(\vec{a}\) は \(\vec{v}\) と \(\vec{w}\) の線形結合で描ける」と表現するということをお伝えしました。
このとき、もし基底ベクトルの \(\vec{v}\) と \(\vec{w}\) がお互いに一次独立しているなら、空間上のあらゆるベクトルを線形結合で描くことが可能です。このことは以下のアニメーションで確認することができます。
一方で、基底ベクトルの \(\vec{v}\) と \(\vec{w}\) がお互いに一次独立していない場合(=一次従属している場合)は、線形結合で描くことが可能なベクトルは、部分空間上(同一線上)に限られます。
以下のアニメーションでご確認ください。
さて、上の2つのアニメーションは、“あること”を明確に示しています。
それは2次元の平面空間において、あらゆるベクトルを線形結合で描くことができるのは、2つの基底ベクトルが平行していないときであるということです。反対に、2つの基底ベクトルが平行しているときは、部分空間上のベクトルしか描くことができません。
つまり、2次元空間においてベクトルが一次独立しているということは、お互いのベクトルが平行していないということなのです。
ポイント:2次元空間におけるベクトルの一次独立
2次元の平面空間においては、2本の基底ベクトルがお互いに平行していないとき、それらのベクトルは一次独立している。ベクトルが一次独立しているときは、空間上のほかのあらゆるベクトルを線形結合で描くことができる。一方で、2本のベクトルがお互いに平行しているとき、それらのベクトルは一次従属している。ベクトルが一次従属しているときは、線形結合で描くことができるほかのベクトルは、部分空間上のものに限る。
3次元空間における一次独立
3次元空間においては、任意のベクトル \(\vec{a}\) を、3本の基底ベクトル \(\vec{v}\) と \(\vec{w}\) と\(\vec{u}\) を使って、\(\vec{a}=x\vec{v}+y\vec{w}+z\vec{u}\) で示すことが可能なとき、「ベクトル \(\vec{a}\) は \(\vec{v}\) と \(\vec{w}\) と \(\vec{u}\)の線形結合で描ける」と表すことができます。
このとき、3本の基底ベクトルが一次独立しているなら、空間上のあらゆるベクトルを線形結合で描くことが可能です。以下のアニメーションで確認してみましょう。
一方で、三本の基底ベクトルが一次従属している場合は、線形結合で描くことが可能な範囲は部分空間に限られます。
3次元空間における一次従属には、2つのパターンがあります。たとえば、3本のベクトルがすべて平行している場合は、線形結合で描ける部分空間は同一線上のみになります。以下のアニメーションでご確認ください。
そして、3本のベクトルのうち2本が平行している場合、どちらの場合も部分空間は同一平面上のみになります。以下のアニメーションでご確認ください。
このように3次元の立体空間においても、あらゆるベクトルを線形結合で描くことができるのは、つまりそれぞれのベクトルが一次独立であるのは、2次元空間の場合と同じで、「ベクトルが平行していない場合である」ということがわかります。
反対に、線形結合で部分空間上のベクトルしか描けない、つまり、それぞれのベクトルが一次従属であるのは、2本以上のベクトルが平行している場合である」ということになります。
ポイント:3次元空間におけるベクトルの一次独立
3次元の平面空間においても、3本の基底ベクトルのすべてが平行していない場合に、それらのベクトルは一次独立している。ベクトルが一次独立しているときは、空間上のほかのあらゆるベクトルを線形結合で描くことができる。一方で、3本のベクトルのうち2本以上が平行しているとき、それらのベクトルは一次従属している。ベクトルが一次従属しているときは、線形結合で描くことができるほかのベクトルは、部分空間上(同一線上か同一平面上)に限る。
2. ベクトルの一次独立の厳密な定義
繰り返しになりますが、ここまで見てきた通り、ベクトルの一次独立とは、「すべての基底ベクトルが平行していない」ということです。なお基底ベクトルの数は、2次元空間なら2本ですし、3次元空間なら3本です。
これを数学的に厳密に定義すると次のようになります。
2次元ベクトルの一次独立の定義
\(a\vec{e}_1+b\vec{e}_2= \vec{0}\)となるのは、\(a=b=0\) の場合に限る。
3次元ベクトルの一次独立の定義
\(a\vec{e}_1+b\vec{e}_2+c\vec{e}_3 = \vec{0}\)となるのは、\(a=b=c=0\) の場合に限る。
一見難しく見えますが、要するに、基底ベクトルのいずれか一組でも平行している場合は、この定義を満たさなくなるため、結局この定義は、「ベクトルの一次独立とはいずれのベクトルも平行していない状態である」ということを数学的に表しているだけであって、難しく考えこむようなものではありません。
なお、この定義はすべての次元数の空間になっても変わりません。そのため、どのような次元数でも対応できるように、教科書では以下のように変形されています。
\[
\begin{eqnarray}
\sum_{i=1}^kc_i\vec{v}_i
&=&
c_1\vec{v}_1+c_2\vec{v}_2+\cdots +c_k\vec{v}_k \\
&=& \vec{0}
\end{eqnarray}
\]
となるのは、 \(c_1=c_2= \cdots=c_k=0\) の場合に限る。
しつこいですが、この式が表していることは、全く同じで、「ベクトルの一次独立とはいずれのベクトルも平行していない状態である」ということを数式で表しているだけのものに過ぎません。
応用力や実践力という意味では、アニメーションで解説したように幾何学的に理解しておくことの方がはるかに重要です。
3. まとめ
以上がベクトルの一次独立です。これは定義式を見ると難しいもののように感じてしまいますが、アニメーションで幾何学的に見てみると、非常に単純なものであることがわかります。
このページがあなたにとって理解の助けになったなら、とても嬉しく思います。
次に読みたいページ
次は、線形代数の本丸である「線形変換」について理解するための最重要概念とも言える「ベクトルと行列の積」について解説します。後はこのページだけ読めば、ようやく線形代数の最も楽しいパートへ進むことができます。それでは『ベクトルと行列の積とは何か?計算方法と幾何学的な意味を徹底解説』へと読み進めてください。
コメント
コメント一覧 (2件)
3次元では3つのベクトルが同一平面内にあれば互いに平行でなくとも独立ではないので、「ベクトルの一次独立とはいずれのベクトルも平行していない状態である」は2次元に限るのではないでしょうか。
> このとき、もし基底ベクトルの v⃗ と w⃗ がお互いに一次独立しているなら、空間上のあらゆるベクトルを線形結合で描くことが可能です。
他のページにも書きましたが基底の定義は次の通りです。
1. 基底の組み合わせの中の各ベクトル同士は一次独立である
2. 基底の組み合わせは空間を張る
一次独立だからといってすべてのベクトルを線形結合で表せる保証はありません。