実験6. 補足② テスト内容の影響について
実験6は、これまでの調査に関する代替的な解釈を検証するためのものです。ここまで、能力をほめられた子供たちは、知的タスクの成績は、知的能力を計測するためと考え、努力をほめられた子供たちは、成績は、どれぐらい努力したかを計測するためと考えると仮定してきました。
しかし、代替的解釈では、これまでの実験で見られた違いは、子供たちは、ある特定のタスクは能力を測るものであると考えたから生まれた、と考えられます。例えば、1セット目の後、能力をほめられた子供たちは、この実験で与えられた課題は、能力を計測する知力テストであると考えた可能性があります。そのため、子供たちは自然と成績を重要視するようになった可能性があります。さらに、2セット目の悪い成績を取ったことで、自分の能力は低いのだと思い込んでしまった可能性があります。
そう思い込んでしまったとしたら、続くテストに対するモチベーションやパフォーマンスが落ちてしまうのは不思議ではありません。一方で、努力をほめられた子供たちは、テストは、彼らの知力診断であるとは考え難く、そのためにモチベーションが低下しなかったと考えられます。
ここでは、その可能性について検証します。
6.1. 実験6の手順
この実験では、48人の小学5年生(女子23人、男子25人)が参加しました。84%が白人で、8%がアフリカ系アメリカ人、8%がヒスパニックです。
実験6の手順の大半は実験1と同じです。しかし、1セット目のテストの後、子供たちは、全く別の種類のテストを4分間行うかどうかを聞かれます。ミネソタ・ペーパー・フォーム・ボード・テストと呼ばれるテストの改良版です。これは、レーベン漸進性マトリックステストと全く異なり、知力ではなく、空間把握能力などを計測するためのものです。このテストでは、極端に難易度の高いものが用意されています。そして、3セット目では、1セット目と同じ難易度のレーベン漸進性マトリックステストを受けます。成績は、それを何問解いたかで計測されます。
実験1と同じように、問題に取り組む粘り強さや、楽しさ、失敗後の原因をどう説明するか、そして、挫折後の成績の推移が計測されます。そして、実験4と同じように、能力についてどう考えるかが計測されます。それは、子供たちに、「私は、能力とは、・・・・・・・・と考えます」という文の空白部分を埋めて完成させてもらうことで計測します。。分析者が、この文を分析して、それぞれの子供たちが、能力は固定的と考えているか、能力は伸ばせると考えているかを評価します。
6.2. 実験6の結果
Table1d に見られるように、子供たちが失敗の原因をどう考えるかは、グループ毎に異なりました。
能力をほめられた子供たち(平均16.94、標準偏差9.74)は、努力をほめられた子供たち(平均7.13、標準偏差6.48)よりも、持って生まれた能力に原因を求める傾向が顕著です。比較グループ(平均13.31、標準偏差8.67)は、その間に位置します。t検定では、能力グループと努力グループの違い、努力グループと比較グループの違いは有意でした。
努力をほめられた子供たち(平均20.81、標準偏差9.42)は、能力をほめられた子供たち(平均7.25、標準偏差5.34)よりも、努力に原因を求める傾向が顕著です。比較グループでは、能力グループと同じ傾向が見られます。t検定では、努力グループと能力グループの違い、努力グループと比較グループの違いは顕著に有意でした。
また、Table2e で見られるように、それぞれのグループでは、失敗を経験した後の、問題に取り組む粘り強さや、問題に取り組む楽しさが異なっています。
失敗を経験した後の、問題に取り組む粘り強さでは、努力グループの方が、能力グループより高い傾向が見られましたが、統計的に有意と言えるものではありませんでした。
失敗を経験した後の、問題に取り組む楽しさでは、能力グループの子供たち(平均3.84、標準偏差0.74)は、努力グループの子供たち(平均4.86、標準偏差0.88)に比べて、その傾向は顕著に低いものでした。比較グループは両者の中間に位置しています。t検定では、能力グループと努力グループの違いは有意です。努力グループと比較グループに有意な差はありません。
挫折を経験した後の、成績の違いは顕著でした。
能力グループでは(平均4.13、標準偏差1.20)だったのに対して、努力グループでは(平均2.56、標準偏差1.55)、比較グループ(平均2.94、標準偏差1.84)だったのです。
つまり、これは、成功した時に能力をほめると、子供たちは、能力とは生まれ持った固定的なものであるという信念を持つようになるということを示しています。その信念は失敗した後でも、能力は努力によって伸ばす、には変わりません。
Figure5b は、固定的知能観と暗黙の知能観のどちらの信念を持つかの調査結果です実験4と同じように、能力グループは明確に固定的知能観の信念を持ち、努力グループは、暗黙の知能観を持ちます。
また、最後に行った文の穴埋めでも、能力グループと努力グループでは、完成させた文の内容が異なりました。努力グループの56%が、能力とは何かを説明するのに、「一生懸命勉強すること」「ベストを尽くすこと」「どれだけ多くを知っているか」などのモチベーションに由来(モチベーション・ターム)する言葉を使いました。
一方で、能力グループで、そうしたモチベーション・タームを使ったのは25%だけでした。75%は、能力に由来する言葉(トレイト・ターム)を使いました。比較グループは、能力グループと非常に似通った23%でした。カイ二乗検定分析では、この傾向は有意でした。しかし、能力とは何かの説明に、「賢さ」などのトレイト・タームを使うことについては、有意ではありませんでした。
ただし、このオープンクエスチョンをどのように埋めるかの結果は、ほめ方が子供たちの、能力の定義にどう影響するかの確証の材料を提供しています。成功の後に能力をほめられた子供は、能力とは、持って生まれたものであるとみて、それは努力で伸ばせるものではないと考えるようになります。
努力をほめられた子供たちは、能力とは鍛えらえるものである、というようなモチベーション・タームを使い、能力は成長発展させられるものだと考えます。比較グループの子供たちは、暗黙の知能観に同意する傾向はあるものの、どちらか一方に傾くということはありませんでした。努力グループよりは、モチベーションタームの使用頻度は低いものでした。
6.3. 実験6のまとめ
まとめると、実験6は、ある一種類のテストに成功した後、能力をほめると、その傾向は、全く違う種類のテストで挫折しても全く同じであることがわかります。つまり、能力グループと努力グループに見られる違いは、テストの内容に影響されてのものではない、ということです。
このことから、純粋に、能力をほめることが、子供たちのゴール選好をパフォーマンス・ゴールにし、努力をほめることが、それをラーニング・ゴールにするということができます。
結果、失敗を経験するための2セット目のテストは、全く異なるテストだったにも関わらず、能力グループの子供たちの、課題に取り組む楽しさは、大きく減退しました。そして、テストの内容が異なるにも関わらず、彼らは、失敗の原因を能力不足だと考える傾向も変わらなかったのです。
つまり、高い成績は、高い知力に起因するものだ(=固定的知能観)と伝えられた子供たちは、関係ないタスクにおいてさえ、成績から自分たちの能力を測ろうとしたのです。努力をほめられた子供たちにそのような傾向は見られません。能力をほめるのと(パフォーマンス・ゴール)、努力をほめるのと(ラーニング・ゴール)の、異なる効果は、ただ一つの特定のタスクに制限されるものではありません。
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