モチベーションが高い人と低い人の違いに関する心理学的な6つの発見

このままではダメだと分かっているのに、どうしてもモチベーションが湧かない…。この悩みはとても辛いものです。頭ではやらないといけないとわかっているけど、何も成長がないまま、数日、数ヶ月、場合によっては数年もたっている…。

そして、気づいたら、無駄に過ごしてきた日々への焦燥感と、周りと自分との比較からくる自己嫌悪の感覚に苛まれている…。

これは何を隠そう、昔の私の話です。当時は「自分には何かが欠けているのではないか」というぐらい自己不信に陥っていました。「目的意識を持とう」とか「ポジティブな自己暗示をしよう」とか、色々頑張ってみたのですが、一瞬いける気はしても、それだけでは長続きしませんでした。

結局、紆余曲折あって、幸運なことにモチベーションを取り戻すことができたのですが、その理由については、自分の中で、全く説明できないままでした。そんなある日、ある論文に出会うことで「そういうことだったのか!」とやっと腑に落ちました。

ここでは、その論文について紹介します。

これは、今までモチベーションが湧かずに悩んできた方にとって、最大の解決のヒントとなると思います。それは、ここに書かれているのは、モチベーションを高めるテクニックではなく、「モチベーションはどこから生まれるのか」という根源の話だからです。

モチベーションの根源がある人にとっては、テクニックは非常に効果があります。しかし、根源がない人は、その根源を理解しなければ、どんなテクニックも効果はありません。土台がないところに家が立たないのと同じことです。そして私自身、モチベーションの土台が出来てから、モチベーションのテクニックを使うようになると、今度は非常に効果を実感することができたのです。

だから、色々試してみても、モチベーションの問題が解決しなかったという方は、ぜひ、このモチベーションの根源を理解するところからはじめてください。きっと、そう遠くない将来、この記事に触れることができて良かったと思って頂けると思います。

目次

はじめに:6つの発見について

ここで解説する6つの発見は、コロンビア大学の心理学博士であり、リサーチ・サイエンティストのリサ・ブラックウェルと、スタンフォード大学の心理学教授キャロル・S・ドウェックの『暗黙の知能観によって思春期における達成を予測できる:縦断的な実験と介入』という研究からのものです。この論文は、被引用数が約2700回と、発達心理学の分野で大きな影響力と権威のあるものです。

この研究では2つの実験が行われています。

実験1には、ニューヨーク市のある中学校の新7年生になる373人(女子198人、男子175人)の生徒たちが参加しています。新入生たちは4年に分けて入学してきました。新入生が最も少ない年は67人で、最も多い年は114人でした。実験1は、彼らを合計5年間調査して、モチベーションの根源を発見することを目的としています。

そして、実験2では、実験1の発見を基として、ニューヨーク市の別の中学校の新7年生99人(女子49人、男子50人)を対象に、モチベーションを高めることはできるのか、それによってどのような効果が得られるのかを発見しています。

6つの発見のうち、はじめの3つは実験1から、あとの3つは実験2からのものです。

なお、この記事の中には、以下の2つの言葉が出てきます。

  • 暗黙の知能観 “Implicit Theories of Intelligence”
  • 固定的知能観 “Entity Theories of Intelligence”

「暗黙の知能観」とは、人間の能力は可変であり、努力や訓練によって伸ばすことができるという信念です。一方で、「固定的知能観」とは、人間の能力は生まれつき決まっており、それを変えるためにできることはほとんどないという信念です。詳しくは、『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観))』をご確認ください。

これらは、ドウェックが提唱した概念で、発達心理学の分野で頻繁に出てくる重要なものなので覚えておくと良いでしょう。

それでは、早速、見ていきましょう。

1. 「能力は伸ばせる」という信念が強い人ほどモチベーションが高い

実験1は、暗黙の知能観(人間の能力は努力と訓練によって伸ばすことができるという信念)がモチベーションと密接に関係していることを明らかにしました。まず、この実験では、モチベーションを次の4つの要素に分解しています。

  1. ラーニング・ゴール:学習して物事に習熟することを最大の目標とする姿勢
  2. 努力に対するポジティブな信念:努力によって何事にも習熟できるという信念
  3. 救いのない解釈の少なさ:挫折や失敗に対する現実逃避的な解釈の少なさ
  4. ポジティブな戦略の模索:困難な状況においてより効果的な戦略を模索する姿勢

ラーニング・ゴールについては、『ラーニングゴールとパフォーマンスゴールが振る舞いのパターンを作るメカニズム』で詳しく解説しています。また、救いのない解釈とは、物事がうまくいっていない時に、できない理由ばかり考えたり、悪いのは周りであって自分ではない、というような前進のない考え方のことです。詳しくは、『適応行動と非適応行動に見られる認知、情動、振る舞いの具体的違い』で解説しています。

そして実験の結果、暗黙の知能観と、これらのモチベーションの4つの要素の間に正の相関関係(一方が高ければ、他方も高い)があることがわかりました。つまり、暗黙の知能観が強ければ強い人ほど、その信念に引っ張られて全体的にモチベーションが高いということです(Table4)。

Table4. 暗黙の知能観とモチベーション変数の相関係数。**p<.01。

なお、Table4からはそれぞれのモチベーションの構成要素は、相互に影響し合っていることがわかります。つまり暗黙の知能観を教えることで、それぞれのモチベーション要素が高まり始めれば、時間とともに、相乗効果で全体的なモチベーションが高まっていくということです。この心理的メカニズムの詳細については、後の「モチベーション経路モデル」で解説します。

ここで重要なのは、暗黙の知能観の人も、固定的知能観の人も、通常の状況下では、モチベーションに違いはないという点です。違いが見られるのは、挫折や失敗に直面した時や、困難な状況下においてです。

そのような困難な状況下では、『失敗や挫折から学ぶ人と失敗から逃げる人の心理学的7つの違い』でも触れているように、暗黙の知能観をもつ人は自分自身を鼓舞してモチベーションを高めることができ、固定的知能観をもつ人は自分を卑下してモチベーションを低めてしまうことがわかっています。

学問であれ、スポーツであれ、仕事であれ、物事がうまくいっている時は、誰だってモチベーション旺盛です。つまり、モチベーションが問われるのは、物事がうまくいっていない時です。

このことは非常に重要です。

なぜなら、新しい物事を体得しようとしたり、高い目標を達成しようとするなら、それらは例外なく困難なものだからです。困難を覚えずに出来ることなら、そもそも、それを行うために高いモチベーションは必要ではありません。

もし、あなたが今、「何事か」に取り組むモチベーションに悩んでいるとしたら、その「何事か」は、困難なものであるはずです。粘り強く取り組まなければ、決して習得したり打開したりできないもののはずです。

そして、もし、その「何事か」に対してモチベーション面で悩んでいるとしたら、その根源的な原因は、あなた自身が、「粘り強い創意工夫の繰り返しの末に、必ず出来るようになる、乗り越えられる」と思っていないからです。だから、潜在意識がそれをやらない理由を考え始めるのです。その結果としてモチベーションが低下します。

一方で、暗黙の知能観を強くもつ人は、そもそも、そのような感性的な悩み方をしません。「全ての物事は生産的な努力によって乗り越えられる」と信じているので、そのようなことで悩むこと自体が無駄なのです。

だからと言って、暗黙の知能観をもつ人は、非現実的な夢想的な願望を追い求めることはありません。そのような傾向はむしろ、固定的知能観の人の方によく見られます。暗黙の知能観の人の方が、現実をよく受け止めるため、現状課題の分析力に長けているからです。一方で、固定的知能観が強い人は、自尊心を守るために現実から目を逸らす傾向があることがわかっています(参考:『失敗から学ぶ人と失敗から逃げる人の心理学的7つの違い』)。

こうしたことから、実際に、暗黙の知能観を強くもつ人は、より大きな成長カーブを描くことがわかっています。それを次に見ていきましょう。

2. 「能力は伸ばせる」という信念が強い人ほど成長カーブが大きい

次に、暗黙の知能観と、数学の成績の成長カーブの間に因果関係があるかどうかを検証するために回帰分析を行いました。

因果関係とは、「AがBの原因である」という関係です。つまり、「暗黙の知能観(A)が良い学業成績(B)をもたらす」ということを意味します。これは、同時に「BがAの原因である」ということではありません。つまり、「良い学業成績(B)が暗黙の知能観(A)をもたらす」ということではありません。あくまでも、「暗黙の知能観(A)が良い学業成績(B)の原因である」ということです。

さてFigure2は、その暗黙の知能観と成績の成長カーブの関係をグラフ化したものです。

Figure2. 知能観と学期ごとの数学成績の相互作用のグラフ。暗黙の知能観と固定的知能観の2年に渡る調整後の数学の成績の成長カーブ。

具体的には、実験に参加した生徒たちのTime1(中学入学直後の最初の学期)の平均成績は72.05(C-評価)でした。この時点では、知能観と成績に有意な因果関係は見られません(β=.98, t=1.47, ns) 。

しかし、Time2(中学中学後の2学期目)以後は、暗黙の知能観と成績の成長カーブの間に、因果関係が顕著に見られました。(β[回帰係数]=.53, t=2.93, p<.05) 。さらに、回帰分析において、6年生の春学期(中学入学直前)のテストの点数ではなく、7年生の秋学期のテストの成績を分析の起点とした場合、暗黙の知能観と成績の成長カーブの間に、非常に強い因果関係が見られました(β=.70, t=17.50, p<.05)。

これはつまり、学業の困難さが増していくほど、暗黙の知能観が、より成績に影響を及ぼすということを意味しています。そして、やがて、暗黙の知能観の生徒たちは、固定的知能観の生徒たちを大きく引き離して、成績が伸びていきます。

当然ですが、困難な状況になればなるほど、より良い成績や業績を達成する為に高いモチベーション(ラーニング・ゴール、努力に対するポジティブな信念、救いのない解釈のなさ、ポジティブな戦略の模索)が必要です。

そして、モチベーションの根源は、「能力は努力と訓練によって伸ばすことができる」という信念にあります。つまり、あらゆる物事の健全な達成のためには、暗黙の知能観が重要だということです。

3. 「能力は伸ばせる」という信念からモチベーションが生まれる

ここまでで暗黙の知能観とそれぞれのモチベーション構成要素が相関関係にあることと、暗黙の知能観と成績が因果関係にあることがわかりました。つまり、暗黙の知能観が高いモチベーションを生み、高いモチベーションがより良い成績を生み出すということです。

ここで紹介する「モチベーション経路」モデルは、まだラフなモデルではありますが、暗黙の知能観が実際に成績を向上させるまでの心理学的メカニズムを描写するとともに、その有効性を示すものです(Figure3)。

Figure3. 7年生の秋学期の成績と、知能観やその他のモチベーション変数と中学の2年間の数学の成長カーブをリンクするプロセスモデルの標準化係数のついたパス(N=373)。X2=606.22; df=290; p<.05; CFI=.990; RMSEA=068; p close fit=ns. 全てのパスでp<.05。

簡潔に解説すると、この図は次のようなことを示しています。

まず、暗黙の知能観が、ラーニング・ゴールと努力に対するポジティブな信念を形成します。ただし、補足すると、ラーニング・ゴール(一貫してものごとに習熟し自分自身が成長することを最大の目標とする姿勢)と、努力に対するポジティブな信念は、非常に似通った概念です。そのため、暗黙の知能観が、ラーニング・ゴール(=努力に対するポジティブな信念)を形成すると理解すると良いでしょう。続いて、ラーニング・ゴール(=努力に対するポジティブな信念)は、困難な状況における救いのない解釈(現実逃避)のなさと、ポジティブな戦略を模索する姿勢を形成します。最後にポジティブな戦略を模索する姿勢が、より良い成績を生み出します。

これが、暗黙の知能観が、モチベーションの向上をもたらし、結果的に成績の向上をもたらす仕組みです。

つまりは、こういうことです。

あなたが、成績や業績を向上させたいとします。そのためには、高いモチベーションを必要とします。そして、成績や業績を向上させるために必要なモチベーションは、「困難な状況下で、より良い戦略を模索する姿勢」です。もちろん、最初から良い戦略を持つのは不可能なので、失敗したら戦略を見直して、改善し、また実行するというPDCAサイクルを回さなければいけません。

ここでPDCAサイクルを教えてもらって、物事がうまくいくようになった方もいるでしょう。しかし、昔の私のように、PDCAサイクルを教えられても、それを回すために必要なモチベーションが欠けているから悩んでいる方も多いと思います。

PDCAサイクルを回すために必要なモチベーション要素は何か?

それは、現実を受け止める姿勢(=救いのない解釈のなさ)です。PDCAサイクルにおいて、現状がうまくいっていないにも関わらず、できない理由ばかり考えたり、悪いのは周りであって自分ではない(=自分には改善すべきところはない)解釈したりしているのでは、当然PDCAサイクルを実践してもうまく行くわけがありません。つまり、PDCAサイクルをうまく回すには、謙虚さと自責性が必要なのです。

通常は、親や教師から、遅くとも社会人としての経験から、謙虚さや自責性を学びます。ただし、世の中、良い親や、良い教師、良い上司、良い環境だけではありませんから、こうしたことを学ばずに来てしまう方もいます。

それでは、そのような謙虚さや自責性を持つためにはどうすればいいのか?

そのために必要なモチベーションが、ラーニング・ゴール(=努力に対するポジティブな信念)です。ラーニング・ゴールの人にとっての最大の関心事は、常に、物事に習熟すること、自分自身が成長することです。このようなゴールが、成長や習熟のために必要な謙虚さや自責性をもたらします。ラーニング・ゴールの対極にあるのが、パフォーマンス・ゴールです。パフォーマンス・ゴールの人にとっての最大の関心事は、自分がひとかどの人物だという評価を得ることです。このゴールが、傲慢さや他責性をもたらします(参考:『ラーニングゴールとパフォーマンスゴールが振る舞いのパターンを作るメカニズム』)。

それでは、ラーニング・ゴールを持つためにはどうすればいいのでしょうか?

その答えが暗黙の知能観(能力は努力と訓練によって伸ばすことができるという信念)です。これが、暗黙の知能観がモチベーションを刺激して、モチベーションが高まることにより、より良い成績・業績を達成できるという心理学的メカニズムです。

なお、既に、当研究以外にも、様々な研究によって、暗黙の知能観とラーニング・ゴールの関係は証明されています(参考:『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観))』)。

さて、それでは、次に出てくる疑問は、「暗黙の知能観は教えることができるのか、教えることによって知能観は変化しうるのか」ということです。これを確認するために、また別の実験が行われています。その結果を見ていきましょう。

4. 能力への信念は短期間の短い講義だけで顕著に変えることができる

ここまでで、暗黙の知能観こそが、困難な状況で高い成績や業績を出すための根源であり、困難な状況を乗り越えるモチベーションを生み出す根源であることがわかりました。

それでは、知能観は変えることができるのでしょうか。固定的知能観(能力は生まれ持ったのもであり変えることはできないという信念)をもつ人が、暗黙の知能観(能力は努力と訓練によって伸ばすことができるという信念)を持てるようにできるのでしょうか。

このことを確認するために、実験2では、生徒たちを2つのグループに分けました。実験グループには能力は訓練によって伸びることを脳科学的な視点から教える講義を行い、対照グループには暗黙の知能観には触れずに、脳科学的に効率の良い記憶方法を教える講義を行いました。

講義の具体的な内容はTable5の通りです。

Table5. 介入セッションのサマリー

どちらのグループも、脳生理学、学習スキル、反偏見的な考え方を学びます。加えて、科学的根拠のある文献のリーディング、それをもとにしたアクティビティ、そしてディスカッションを行います。

しかし、実験グループの生徒たちは、知能は可変であり成長するものであることを教えられます。対照グループの生徒たちは、知能が可変であることには触れずに、記憶に関する講義だけを受けます。

その結果がFigure3です。

Figure3. 暗黙の知能観の変化

暗黙の知能観の講義は、週1回25分の講義を8回という形で行ったのですが、その短い期間の講義だけで、実験グループは暗黙の知能観が顕著に強くなりました。

統計的な話をすると、[実験 vs. 対照][テスト前、テスト後]の2元配置分散分析で、前後のスコアを反復測定変数としてテストしました。そして実験グループは、対象グループよりも確かに大きな知能観の変化を見せていることが確認されました(F=3.98, p<.05)。そして、介入後、対照グループよりも暗黙の知能観になる傾向が顕著に高いという結果となりました(d =.47; F=4.50,p<.05)。

つまり、暗黙の知能観は教育によって伝えることができる、ということです。

しかも、これらの講義は専門家ではなくボランティアの大学生が行ったものです。これを経験のある専門家が講義を行ったり、両親や学校の教師の協力があったりすれば、その影響は、さらに顕著なものになると考えられます。

5. 能力への信念に関する短い講義だけでモチベーションは顕著に変わる

もちろん、暗黙の知能観が強くなった生徒たちは、そうでない生徒たちと比べて、学習に取り組むモチベーションや姿勢にポジティブな変化が、顕著に見られました(Figure4.)。

Figure4. 教師から学習に取り組むモチベーションや姿勢に関して、顕著にポジティブな変化があったと言及があった生徒の比率(%)

暗黙の知能観についての講義を受けた実験グループの27%が、教師から学習に対するモチベーションや姿勢に、極めてポジティブな変化があったとコメントされたのです。対象グループでは、それは9%なので、これは統計的に顕著な違いです(X2 =4.72, odds ratio=3.26, p<.05)。

代表的なコメントが次のものです。

「Lは、それまで決して努力をすることはなかったし、宿題も期限通りに提出することはありませんでした。それが、私がレビューをしてから改善できるように、早めに宿題を終わらせようと、遅くまで何時間も頑張るようになりました。彼は、それまで宿題でCかそれ以下しか取ったことがないのですが、B+を取るようになりました。」

「Mの成績は、とても低かったです。しかし、この数週間、彼女は自発的に、テストの解き方を上達させるために、ランチの時間などに、私に質問するようになってきました。彼女の成績は劇的に上昇し、最近のテストでは落第点から84点になりました。」

これが、どれだけ大きな変化かは、子供をもつ親や、生徒をもつ教師、部下をもつ上司、モチベーションに悩みを持つ自分自身なら、きっと伝わっているはずでしょう。

このように、暗黙の知能観の教育は、モチベーションを顕著に向上させることができるのです。

6. 能力への信念に関する短い講義だけで成績が顕著に上昇する

もちろん、暗黙の知能観教育によるモチベーションの向上は、成績にもポジティブな変化として現れます。

この効果を数学的に厳密に測定するために、階層的線形モデル(HLM)が用いられました。具体的には、暗黙の知能観の講義が実験グループの数学の成長カーブの転換点であったかどうかを確認するためです。そのために、分析において節点(変化点)を作り、講義の後、成績の成長カーブに、急な変化があったかどうかを決定します。

その結果がFigure5です。

Figure5. 介入前後の成績の成長カーブの変化

Time1は、中学入学の直前の小学6年生の時の算数の成績です。Time2は、暗黙の知能観の講義が行われる前の成績、Time3はその後(実験グループの生徒たちが暗黙の知能観を強めた後)の成績です。

対照グループでは、Time1(6年生春)の平均成績、Time1からTime2の間の平均成績(7年生秋学期; b= -.34, t=- 4.29, p<.05)、Time2からTime3の間(講義の後)の平均成績(7年生春学期; b=- .20, t=-2.61, p<.05)にも、顕著な低下が見られました。

実験グループでは、講義前のTime1の平均成績(b=.18, t=.83, ns)とTime1とTime2の間の平均成績(b=-.12, t =- .60, ns)は、対照グループと違いはありませんでした 。これは講義の前だから当然のことです。

ところが、講義の後のTime2とTime3の間の平均成績は、顕著に上昇しています(b=.53, t=2.93, p<.05)。

対照グループの生徒に見られるような成績の低下は、小学校から中学校への移行時に一般的に見られるものです。しかしながら、暗黙の知能観をほんの少しだけ教えられた実験グループでは、その後、成績が顕著に上昇しています。

つまり、暗黙の知能観の教育は、生徒たちの成績を顕著に向上させることができる、ということです。

まとめ:モチベーションを挫くもの高めるものの正体

ここで私がお伝えしたい結論は次の通りです。

モチベーションを挫くのは「能力はもって生まれたもので変えることはできない」という信念(暗黙の知能観)であり、モチベーションを生み出すのは「能力は努力と訓練によって伸ばすことができる」という信念(固定的知能観)である。

実験結果から明らかになったのは、暗黙の知能観こそが、大きな物事の達成を可能とするモチベーションの心理学的な根源であるということです(暗黙の知能観と達成は因果関係にある)。そして、暗黙の知能観が、達成に必要なあらゆるモチベーションを向上させるのです(暗黙の知能観とモチベーションは相関関係にある)。

そして、さらに重要な発見は、暗黙の知能観は教えることで変えられるという事です。つまり、固定的知能観(能力はもって生まれたものであり変えられないという信念)が強く、困難な状況において非適応的な救いのない振る舞いを見せる人たちに、脳科学的な根拠とともに、暗黙の知能観を教えることによって、彼らは実際に、暗黙の知能観を持つようになるのです。

このことは、子供たちや、部下、そして何よりも自分自身を、より生産的な習熟指向の振る舞いのパターンを取ることができるように、再教育できるということを表しています。

これらの事実は、私にとってもストンと腑に落ちます。

私は社会人としてのキャリアを、ある不動産会社での営業職としてスタートしました。当然、大事なお客様を新人に任せることなどできませんから、新人は、「売り出し」と言って、物件近くで道行く人に声をかけて、見込みのお客様を獲得するところからのスタートです。

当時、人に貢献するという発想などなく、そのためにプライドが高く、引っ込み思案だったものですから、とても声をかけることなどできません。同期の新入社員が、どんどん売り出しで成功していく横で、私は、「こんなことやって何になるんだ。こんなことをやらせるなんて最低の会社だ」と不満だらけでした。

そんな不満をどれだけ言っても、現状の解決には全くなりませんから、それは非適応的で救いのない振る舞いです。実際、会社から給料を頂いているにも関わらず、売り出しで声をかけることもできず、一日中公園でタバコを吸っていたこともあります。ひどいものですね。

そんな中で、人生を変えてくれた人との出会いがありました。その人は、私以上に、私ができるようになると信じてくれたのです。今思うと、その人が暗黙の知能観を植えつけてくれました。

結果、出来ることをやろうと、とにかく笑顔で元気よく声がけをするところから始めたのです。なんども挫けそうになりながら、そこで諦めたら、ろくな人生にならないと自分を奮い立たせ、看板に書く内容や置く位置を自分なりに工夫したり、結果を出している同僚のトークに聞き耳を立てて、出来るだけコピーしながらやり続けていたら、様々な人たちの応援のおかげで、月並みな成績ながら何とか売れるようになっていきました。

「人間は努力と訓練を続ければ、できるようになるんだ」ということを体得させてくれた経験でした(もちろん創意工夫が重要です)。まさに、暗黙の知能観を体感したのは、この時で、それ以来、仕事に関して、不安に支配されず、時間をかけて様々なチャレンジをコツコツと続けられるようになりました。

結局、様々な事情から、ろくに貢献することなく退社してしまったのですが、今でも、その不動産会社は人生の重要な教訓を教えてくれた貴重な場です。

確かに、個々人によって能力の成長スピードは異なるかもしれませんし、限界も異なるかもしれません。しかし、ここで重要なのは、個々人のそのような限界は第三者には決してわからないということです。

むしろ、第三者が無責任に誰かの限界を決めつけてしまう行為そのものが、子供たちや部下や、自分自身のモチベーションに不幸な影響を与えているのです。一方で、人々のポテンシャルに焦点を当て、能力の限界を広げようとする姿勢が、モチベーションに多くの栄養を与えるのです。

大事なことなので、結論としてもう一度お伝えします。

モチベーションを挫くのは「能力はもって生まれたもので変えることはできない」という信念であり、モチベーションを生み出すのは「能力は努力と訓練によって伸ばすことができる」という信念である。

以降のページでは、実験の詳細についてお伝えします。上記のまとめだけで納得できる方は、無理に読み込む必要はありませんが、興味が刺激されるようなら、ぜひお読みください。

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