ラーニングゴールとパフォーマンスゴールが振る舞いのパターンを作るメカニズム

世の中には、困難に直面した時、自分の非や、経験不足、知識不足、スキル不足を認めずに、逃げ出す「非適応的な(救いのない)」人がいます。彼らは、自尊心を守るために、「悪いのは相手や世の中であって自分ではない」と自らに言い聞かせます。

一方で、困難に直面した時、今までの言動や行動、戦略を反省し、「どうやったら乗り越えることができるか」を粘り強く考え、実践していく「適応的な(習熟指向性の)」人がいます。彼らは、短期的な成功や失敗にわき目も振らず、地味な努力を積み重ね、やがて大きな何かを達成します。

このような達成状況(困難なタスクや失敗に直面した時)の両者の振る舞いや行動パターンの具体的な違いは『適応行動と非適応行動に見られる認知、情動、振る舞いの具体的な違い』で詳述しました。

それでは、両者のこうした振る舞いや行動の違いは、どこから生まれるのでしょうか。なぜ、同じような状況に直面した時に、両者は正反対の行動を見せるのでしょうか。その答えがわかれば、望む人は今日から振る舞いや行動を変えることができます。

もちろん、それが簡単だ、などといい加減なことを言うつもりはありません。しかし、困難から逃げ出す人と、困難を乗り越える人の、振る舞いや行動の違いを生む原因が何なのかを理解することは、自らを革新しようと望む人にとって、大きな助けとなるはずです。そして何よりも、人間には一人一人、無限の可能性があり、それを開花させるか、無駄にしてしまうかは、自分次第だということが分かります。

それでは、早速見ていきましょう。

目次

1. ゴールとは

「ゴール」とは、ある出来事をどのように解釈するか、どのような情動を覚えるか、それに対してどのように振る舞うか、という行動の枠組み(フレームワーク)を決める達成目標のことです。

達成状況において、人びとが追い求めるゴールには2つの種類があります。

  • パフォーマンス・ゴール
  • ラーニング・ゴール

パフォーマンス・ゴールは、自分自身の能力に対して好ましい評価を得ることが最大の達成目標です。ラーニング・ゴールは、自分の能力を伸ばすことが最大の達成目標です。一見すると、どちらのゴールも適応的であり生産的に見えますが、そうではありません。

能力を高く評価されることを求めるパフォーマンス・ゴールの人は、成長をもたらすが、同時に困難や失敗の可能性がある状況を避ける傾向があることがわかっています。本来、高い評価を得ることが目標なら、成長のチャンスに貪欲なはずなのですが、皮肉なことにパフォーマンスゴールの人々は、それとは正反対の非適応的な救いのない行動をしてしまいます。

一方で、成長を追い求めるラーニング・ゴールの人は、困難な状況に自らすすんで、粘り強くチャレンジしていきます。最初は、浅薄な人たちから能力を疑われることもあるかもしれませんが、結果的に、大きな何事かを達成します。つまり、ラーニング・ゴールの人は適応的であり習熟指向なのです。

2. パフォーマンスゴールとラーニングゴールの違い

それでは、ここから、パフォーマンス・ゴールと、ラーニング・ゴールの違いを具体的に見ていきましょう。

2.1. エリオットとドウェックの実験

スタンフォード大学心理学教授キャロル・S・ドウェックらは、パフォーマンス・ゴールの人は「非適応的な救いのないパターン」を示す顕著な傾向があり、ラーニング・ゴールの人は「適応的な習熟指向性のパターン」を示す顕著な傾向があることを、その研究『ゴール:モチベーションと達成のアプローチ(※1)』によって実証しています。

この実験では、エリオットとドウェックは、まず、被験者の子供たちの、

  • (a) ゴール選好(能力を高く評価されること、もしくは、学習によってスキルを獲得ことに重きを置くように誘導した)
  • (b) 現在の能力レベルの査定(事前テストの結果を実際の結果を無視して、意図的に高得点または低得点と告げた)

を操作しました。その後、以下の手順で進められました。

まず、ゴール選好の操作の影響を検証するために、被験者の子供たちは、ラーニング・ゴールかパフォーマンス・ゴールを具現化した一連のタスクのうち、どちらかを選ぶよう促されました。

ラーニング・ゴールのタスクは、スキルの獲得が可能なものですが、能力をネガティブに評価されるリスクも高いものです。対照的に、パフォーマンス・ゴールのタスクは、能力を好意的に評価されるもの(難しいタスク)、又は、能力不足が露呈されるリスクがないもの(誰にでもできる簡単なタスク)のどちらかです。このタスクには、新しいスキルの獲得のための学びはありません

子供たちの選択の後、どちらのグループにも、同じ内容のタスクが与えられます。タスクを与える際、実験者は、「これはほどほどの難易度のテストで、あなたの選択にマッチしたものです」と告げ、子供たちが自分の選択が尊重されたと感じられるように配慮しています。

子供たちは、問題に取り組む中で、考えたことや感じたことを話すように促されました。そして、その話の内容と、子供たちが問題に解答するために適用する戦略が観察されました。

2.1.1. ラーニングゴールは学びの機会を選ぶ

結果、スキルの獲得に焦点を置くように誘導された時(=ラーニング・ゴール)、子供たちは、現在の能力の水準に関わらず、チャレンジングなラーニング・タスクを選びました。つまり、「習熟指向性」のパターンを見せました。

「現在の能力の水準に関わらず」という点が非常に重要です。

ラーニング・ゴールの人々は、たとえ、現在の能力が、タスクが求める基準に達していないとしても、その現実から逃げずに、しっかりと受け止めた上で、自分の能力を伸ばして、出来るようになろうとするのです。彼らにとって、一時点で、何かができないとか、能力をネガティブに評価されるということは恥ではないのです。

バスケットボールのスーパースター、マイケル・ジョーダンは、まさに、ラーニング・ゴールの人物です。彼が、高校のバスケットボールチームにすら入れなかったことはご存知でしょうか。その悔しさに奮起した彼は、毎朝6時から、早朝トレーニングに励みました。

ジョーダンは言います。「精神的な強さと熱意は、さまざまな身体能力よりもはるかに大きな力を発揮する。ぼくはいつもそう言ってきたし、いつでもそう信じてきた」。

だからこそ、あれだけ偉大なプレーヤーになれるのです。

ジョーダンは、成功と名声の頂点に上り詰めて、天才プレーヤーと言われるようになってからもなお、粘り強く練習を続けたことは伝説として語り継がれています。ブルズの元アシスタントコーチ、ジョン・バックは、彼を、「天賦の才を常に磨こうと考える天才」と評しました(※2)

なお、ラーニング・ゴールのアスリートと、そうでないアスリートの例は、『スポーツとマインドセット』で紹介しているので、ぜひご覧ください。

私たちの多くは、特定の分野で圧倒的な成功をおさめている人物や、歴史上の偉人を見ると、その要因を「才能」という乱暴な言葉で表現してしまいます。それは真実ではありません。真実は、人間の能力は努力し続けることによって無限に拡がる、ということです。彼らは、誰にも負けない努力を何年も何十年も続けてきたのです。

そうした背景を無視して「才能」という言葉で片付けるのは、あまりにも乱暴です。そして、「才能」という言葉で、自分の努力不足から目をそらし、自尊心を守ろうとするのは、全く生産的ではありません。それは、次から見ていくように、あなた自身の本当の能力の開発を妨げ、本来歩めるはずの未来さえ無味乾燥なものにしてしまうのです。

2.1.2. パフォーマンスゴールは学びの機会を避ける

対照的に、子供たちが能力の評価に焦点を置くよう誘導された時(パフォーマンス・ゴール)、彼らが選ぶタスクや、見せるパターンは、彼ら自身の自分の能力に対する現在の自己評価に大きく依存していました。

つまり、自分の能力が高いと認識している子供たちは、自分の高い能力を示すことができる難しい方のパフォーマンス・タスクを選びました。一方で、自分の能力に自信がない子供たちは、能力が劣ると評価されることを避けられる、簡単な方のパフォーマンス・タスクを選びました。どちらも、失敗の可能性のあるラーニング・タスクを見事に避けました。つまり、パフォーマンス・ゴールの人々は、自尊心を満たす、または自尊心を守るために、新しい学習、成長の機会を犠牲にするのです。

この実験の結果で特に興味をひくのは、パフォーマンス・ゴールに誘導され、かつ、事前テストで能力が低いというフィードバックを受けた子供たちの全員が、『適応行動と非適応行動に見られる認知、情動、振る舞いの具体的な違い』で解説している「救いのないパターン」と同じ、ネガティブな認知、ネガティブな情動、ネガティブな能率の変化を見せた点です。

つまり、パフォーマンス・ゴールの人が、習熟指向の適応行動を見せるには、自信が必要ということです。しかし、ラーニング・ゴールの人は、そのために自信を必要としません。

このことは、パフォーマンス・ゴールの人々は、現時点での能力がどうであろうが、いずれ「救いのないパターン」に陥ることを示しています。なぜなら、パフォーマンス・ゴールの人は、自尊心のために新しい成長や学びの機会を犠牲にするからです。新しい成長や学びがないのなら、いずれ能力不足にな理、自信を失うようになることは明白です。

個人的な経験で、こういうことがありました。あくまでも、私の主観的主張として、参考程度にご覧ください。

事前の学習や経験の積み重ねも含めて、20代の後半の全てをかけて、寝食を惜しんで、健康すら犠牲にしながら作りあげたものがあります。それは大きな反響を呼び、会社が飛躍することができました。その時、ある人間はこう言いました。「そんなものは誰だって作れる」。3ヶ月後、何も成果物がなかった彼に問い詰めてみました。彼の返答は「あの後、考えてみたが、そんな事はそもそもやる意味がない」でした。後で、当時の彼の部下が教えてくれたのですが、「数日か数週間ほどやってみて、彼は、諦めてしまったんですよ」とのことでした。

そして、彼は、自分で価値あるものを生み出す代わりに、人を罠にはめて誰かが作った価値あるものを奪って、自分のものにする人物になりました。今、私の耳に、彼に関して聞こえてくることは、とんでもない悪評ばかりとなり、真に有能な人物はみな離れていきました。そして、自分に立てつかないイエスマンだけを採用するようになりました。

これは、もともと能力があったパフォーマンス・ゴールの人が陥る典型的なパターンです。自分が優れていると感じ続けなければいけないため、そう感じさせてくれる人、つまり能力が自分より劣っているとみなす人に囲まれようとするのです。

鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーは、墓碑銘に「己より賢き者を近づける術知りたる者、ここに眠る」と記したことで有名ですが、よい対比でしょう。

さて、ここで重要なのは、達成目標がパフォーマンス・ゴール(自分の能力を社会から好意的に評価してもらうこと)の人は、たとえ、ある時点では活躍できたとしても、いずれ行動が非適応的(救いのないパターン)になってしまうということです。そうした破壊的な振る舞いの原因は、ゴールにあるのです。

彼も本来は、高い能力水準にある人間だったことでしょう。しかし、今では、新しい成長や学びの機会に粘り強く取り組むことは決してなく、常に、その場しのぎなのです。結果、もともとあった能力は時代遅れになり、通用しなくなっていくのです。そのようなラーニング・ゴールのビジネスマンの末路は、『マインドセットとリーダーシップ』でも解説しています。その場しのぎのパフォーマンス・ゴールはこうもネガティブになれるものなのです。

ただし、そうした現実逃避的な行動から手痛い経験が訪れ、晩年になってから目が覚めて、すばらしい人格者になる方もいますから、やはり、全ての人は無限の成長の可能性があるのです。

2.2. ゴールが振る舞いや行動のパターンを作る

さて、このように、ゴールが、振る舞いや行動のパターンを作ります。『嫌われる勇気』で一躍、再脚光を浴びたアドラーは、「目的が感情や行動を作る」という目的論で知られていますが、まさにそれです。

そのことを証明する他の研究室による研究も、簡潔に見ていくことにしましょう。

2.2.1. エイムスの実験

エイムスは、その実験、『競争的ゴール構造と個人主義的ゴール構造下における達成要因と自己教育』では、被験者を、グループ内での能力の相対評価と、能力の向上のどちらかに焦点を置くかによって、競争的ゴールか個人主義的ゴールに誘導し、その影響を調査しました(※3)

結果は、競争的な被験者(パフォーマンス・ゴール)は、成績は能力に起因するものであると考える傾向が、個人主義的な被験者(ラーニング・ゴール)より顕著に高いというがわかりました。一方で、個人主義的な被験者たちは、他方と比較して、自己学習に焦点を置く傾向が顕著でした。彼らは、何事かを達成するための条件のうち、「現時点での能力は最も関係がない」としました。

エイムスは、これらの発見から「救いのない非適応的パターン」や「習熟指向性の適応的パターン」を生み出すのはゴール構造である、と結論しました。

2.2.2. バンデューラとドウェック、レゲットとドウェックの実験

個々人のゴール選好を操作するのではなく計測することにした、バンデューラとドウェックの実験『知性の概念とゴール設定、達成に関連する認知、情動、振る舞いの関係』、レゲットとドウェックの実験『ゴールと推測のルール:因果関係の判断の源』も、パフォーマンス・ゴールの人は、チャレンジを避ける傾向にあり、もし失敗に直面すると、それを能力のせいにして、ネガティブな情動や、粘り強さの欠如を見せることが分かりました(※4,5)

対照的に、ラーニング・ゴールは、能力に対する自信が低い時でさえ、チャレンジを探し求め、困難に直面すると、努力と戦略に焦点を置き、ポジティブな情動と高い粘り強さを見せます。

2.2.3. ファーレルとドウェックの実験

さらに、ファーレルとドウェックの研究、『学習の流用におけるモチベーションのプロセスの役割』でも、個々人のゴール選好から、実社会での振る舞いや行動のパターンを予測できることの証拠を示しました(※6)

「学習の流用」とは、既に学習したことを、それと似たような上達法則をもつ新しいタスクに流用するという、折り紙つきの効果的な学習戦略の一つです。ファーレルとドウェックは、子供たちのゴール選好と、この学習の流用の関係を調査しました。

一週間の科学の授業において、中学2年生の子供たちは、それぞれ概念的に緊密な関係にある3つの科学の原理のうち1つを教えられました。その後、彼らは、学んだことを一般化して、応用できるかを見るために、まだ教えられていない2つの原理を含むテストを受けました。

結果、ラーニング・ゴールの子供たちは、パフォーマンス・ゴールの子供たちと比べて、以下の特徴を見せました。

  • (a)顕著に高い点数を得られた(実験前の事前テストで点数が高かった者も、低かった者も)
  • (b)テストに50%以上多く取り組んだ、つまり学んだことを流用するのにより積極的だった
  • (c)正解しなくとも、既に学習したことからルールを見つけ、それを適用した回答をした

これらのことは、ラーニング・ゴールの人は、学習や習熟の機会に対して、より積極的な姿勢を持っていることを示します。対照的にパフォーマンス・ゴールの人は、そうした機会に対して、逃避的な姿勢を持っていることがわかります。

2.3. パフォーマンスゴールとラーニングゴールの違いのまとめ

こう見てみると、やはり、ゴールが行動や振る舞いのパターンを形成することは明らかです。

また、ここまで、パフォーマンス・ゴールの人は、ラーニング・ゴールの人と比較して、様々な点で脆弱であることを解説してきました。

パフォーマンス・ゴールの人の行動は、自分の能力を好意的に評価してもらうこと、または少なくとも、能力のまともさを示すことに、常に支配されています。そのため、彼らの振る舞いは、自然と非適応的な救いのないパターンになります。つまり、パフォーマンス・ゴールが、非適応行動の源なのです。

ラーニング・ゴールの人は、常に新しい知識やスキルの獲得、つまり自己成長に焦点を当てています。そのため、彼らの振る舞いは、自然と適応的な習熟指向性のパターンになります。つまり、ラーニング・ゴールが習熟指向的な行動の源なのです。

ただし、人が成長するためには、好意的な評価を得ることことは重要です。それは、ラーニング・ゴールの人にとっても、成長を追求する原動力の一つです。学習プロセスにおいて、自分の強みや弱みに関して、客観的なフィードバックを受けることは重要です。つまり適応的な人は、パフォーマンス・ゴールとラーニング・ゴールを効果的に配分していると見えます。

一方で、自分の”まっとうさ”を証明しようということに過度な関心が向くと、潜在的に価値ある学習機会を避けるようになってしまいます。ここまで述べてきたように、このような状態は、社会においても対人関係においても問題があります。

ただし、パフォーマンス・ゴールの人も、能力に対する自信が高い時は、習熟指向性のパターンを見せ、何かを成し遂げることがあることを、再認識しておくことは重要です。しかし、パフォーマンス・ゴールの人が高い自信を維持することは非常に困難です。そのため、彼らも、いずれは非適応的な救いのないパターン(現実逃避的になり、内省するより他者を攻撃するパターン)に落ち込んでいきます。カルロス・ゴーンのような人物は、この典型に見えます。一方で、ラーニング・ゴールの人は、実験が示すように、自信の揺らぎにもあまり影響されません。

3. ゴールがパターンを作るメカニズム

それでは、ゴールが、どのようにそれぞれのパターンを作るのでしょうか。ドウェックとエリオットをはじめとする数々の研究(※7)から、ゴールが出来事の解釈や反応の枠組み(フレームワーク)を形成することがわかっています。

同じ出来事でも、ラーニング・ゴールの観点とパフォーマンス・ゴールの観点では、全く異なった意味や影響を及ぼすのです。簡潔に言うと、同じ出来事でも、前者は適応的に反応し、後者は非適応的に反応します。

なぜか?

それは、ゴールの枠組みの違いが、同じ出来事に対して、全く異なる認知、情動、振る舞いのパターンを生むからです。次から具体的に見ていきましょう。

3.1. 認知のメカニズム

まず、ゴールによって、失敗や挫折などの困難な状況をどのように捉えるか、という認知のメカニズムが異なります。

パフォーマンス・ゴールの人々は、あらゆる出来事を、常に自分の能力が高いのか低いのか、まともなのかまともでないのか、を計測されてしまう機会ととらえます。彼らは、失敗すると、「自分の能力は大したものではないのだ」、と救いのない認知をしてしまいます。

対照的に、ラーニング・ゴールは、自分の能力を向上させることに焦点を絞ります。彼らにとって、失敗とは、自分が上達のために最適な道筋を歩んでいるのかを再検討するチャンスであり、何らかの改善が必要だということを教えてくれる機会に他なりません。

また、レゲットとドウェックの研究、『ゴールと推測のルール:因果関係の判断の源』は、パフォーマンス・ゴールとラーニング・ゴールでは、努力が意味することが異なることを明確に示しています(※5)

パフォーマンス・ゴールの人にとっては、大きな努力が必要だという事実は、能力が低いということを意味します。逆に、努力なく行えるという事実は、能力が高いということを意味します。彼らにとって、努力は、能力の欠如と同義なのです。

一方で、ラーニング・ゴールの人は、努力は、ものごとに習熟し、潜在能力を開発する手段として捉えます。彼らは、「たとえ、才能というものがあったとしても、努力だけが、それを開花させる」と考えます。彼らにとっては、努力は能力以上に重要な資質なのです。

ゴールの違いによる同じ出来事に対する認知のしかたの違いをまとめると、パフォーマンス・ゴールの人は、失敗や努力という経験を、自分が持って生まれた能力の不適切さを無慈悲に暴露する救いのないものとして認知します。一方で、ラーニング・ゴールの人は、失敗や努力という経験を、学習や戦略の見直しの機会として認知します。

このような認知メカニズムの違いが、異なる振る舞いや行動を形成します。

3.2. 情動のメカニズム

次に、ゴールによって、チャレンジが必要な状況や、失敗や困難な状況における情動のメカニズムが異なります。

ディーナーとドウェックの研究『救いのない人々の分析:失敗に続く能率、戦略、認知の継続的変化』、『救いのない人々の分析Ⅱ:成功の過程』で、パフォーマンス・ゴールの人は、失敗や努力を、自尊心への脅威と感じることがわかっています(※8, 9)

彼らは達成状況において、まず不安感を覚え、次に抑うつ的な情動が現れ、それらが最終的には「恥ずかしい」という感覚に帰結します。その結果、何事においても、自己防衛的な姿勢を示すようになります。「自分は悪くない」「悪いのは自分を理解しない他者や組織や社会である」と現実逃避し、時に、そのような恥を与えたものに対して過剰な攻撃性を示します。

一方で、デシとライアンの研究『内発的モチベーションプロセスの実証的調査』やレッパーの研究『子供たちの内発的、外発的モチベーション:不要な社会的操作の有害な影響』では、ラーニング・ゴールの人々は、失敗や、努力の経験は、喜びや誇りといった内面的報酬の感覚を増大させることがわかっています(※10, 11)。

バンデューラとドウェックの研究『知性の概念とゴール設定、達成に関連する認知、情動、振る舞いの関係』では、ラーニング・ゴールの被験者の子供たちは、「努力なしに成功してもつまらないしがっかりする」と報告し、パフォーマンス・ゴールの子供たちは「努力なしの成功は誇りであり安心する」と報告しています(※4)

同じように、エイムスとフェルカーの研究『競争的報酬構造の効果と、子供たちの達成要因の解釈と成果の関係』でも、ラーニング・ゴール(論文内では個人主義的構造)の人は、自分自身の努力が大きければ大きいほど、誇りを感じることを発見しています(※12)。つまり、ラーニング・ゴールにとっては、努力そのものが誇りなのです。

ゴールの違いが、失敗や努力を必要とする状況に対して生み出す情動の違いをまとめると、パフォーマンス・ゴールでは、不安や抑うつ的情動が現れる一方で、ラーニング・ゴールでは、能動性と誇りといった情動が現れます。

こうした情動の違いが異なる振る舞いや行動パターンを形成します。

3.3. 振る舞いのメカニズム

ここまで、ラーニング・ゴールとパフォーマンス・ゴールの、達成状況における、異なる認知メカニズム、異なる情動メカニズム見てきました。それでは、異なる認知と情動は、それぞれどのような振る舞いや行動のパターンを生み出すのでしょうか。

ドウェックとエリオットの研究、『達成のモチベーション』は、どちらのゴールを持っているにせよ、人は、そのゴールの達成可能性とポジティブな情動を最大化する振る舞い、または失敗の可能性とネガティブな情動を最小化する振る舞い、もしくはその両方を追求することを発見しました(※7)

パフォーマンス・ゴールであり、かつ、能力に自信がない人は、チャレンジングなタスク(努力が必要で、結果が不確定なもの)をもっとも嫌います。そうしたタスクは、大きな不安を生み、自分の能力の非好意的な露呈、自尊心の喪失を伴うからです。彼らは、そのチャレンジングなタスクへの粘り強い挑戦が、能力への自信を回復させてくれる可能性があるとしても、それを避けます。つまり、失敗やネガティブな情動の可能性を最小化しようとするのです。

結果、よく見られることとして、例え、そのタスクをやらないことによって、他者や組織が困ることになるとわかっていても、彼らは、そのタスクを徹底的に無視します。そのことを指摘すると、様々な理由をつけて、様々な方法で全力で回避しようとします。

パフォーマンス・ゴールでも、能力に自信がある人は、彼らよりはチャレンジングです。ただし、失敗の可能性があるタスクを全力で避けようとするのは同じです。彼らは、学習の機会を犠牲にして、失敗のリスクや困難を避けます。その上で、いまだに自分の能力に自信がある(自分は偉いと思っている)ので、彼らは、往々にして、欺瞞的で信を置けない人物になります。

対照的に、ラーニング・ゴールの人は、成長する可能性があるタスク、努力の誇りや喜びを最大化させてくれるタスクをもっとも好みます。そのようなタスクにチャレンジして、能力不足が露呈したとしても、一向に構いません。

バンデューラとドウェックの『知性の概念とゴール設定、達成に関連する認知、情動、振る舞いの関係』で、ラーニング・ゴールの人は、たとえ現在の能力に自信がなくても、最もチャレンジングな学習機会を探し求めることがわかっています(※4)

ラーニング・ゴールの人は、困難なタスクを避ける必要がないのです。彼らの認知メカニズムや情動メカニズムは、失敗や、努力が必要という事実を、ネガティブなものとは捉えません。そのため、不安や抑うつ的になることはありません。むしろ、たとえ、能力を肯定的に評価されうるものだとしても、それが意味がなくつまらないタスクと認識すれば、それを避けようとすらするのです。

3.4. 異なるメカニズムが達成状況における能率の違いを生む

このような、認知、情動、振る舞いのメカニズムの違いが、達成状況における、両者の能率に大きく影響します。具体的には、パフォーマンス・ゴールの人は、達成状況において著しく能率が減退します。しかし、ラーニング・ゴールの人は、達成状況における困難は、能率を維持し促進する要因になります。

その減退と促進のメカニズムには、5つの要因があります。それをまとめたものが、以下の Table1 です。

Table1 困難に直面した時の認知、情動の減退と促進のメカニズム

ドウェックとレプッチの研究『救いのない人々と子供たちの責任感の強化』、ウェイナーの研究『モチベーションの理論:認知のメカニズム』が示すように、パフォーマンス・ゴールは、失敗を能力不足のせいにします。同時に、努力は成功とは関係がないと考えます(※13, 14)

彼らは、努力は無能の証明という信念を持つようになり、徹底的に努力を回避しようとします。コヴィントンとオメリッヒの研究『努力:学校での達成の諸刃の剣』、フランクルとスナイダーの研究『答えがない課題に対する貧弱な能率:救いのない人々または自分本位な人々』では、この誤った信念が皮肉な結果をもたらすことがわかっています(※15, 16)。

それが何であれ、何かに習熟するには努力が必要です。彼らのゴールである高い能力があると認められることを達成するには、習熟が必要です。しかし、彼らは努力を可能な限り回避しようとします。つまり、能力が高いと認められることを心から望んでいるにも関わらず、そのためには努力が必要であるという現実を受け入れないため、願望と現実が大きく乖離しているのです。

次に、カーヴァーらの研究『テストに対する高いまたは低い不安感をもつ人々の間の、成績に対する自発的注意力の影響』や、サラソンの研究『不安感:理論、調査、そして応用』など、数多くの研究で、パフォーマンス・ゴールの人は、困難に直面すると、不安という情動に支配され、注意力が大きく低下することがわかっています(※17, 18)。彼らは、困難な状況では、インスピレーションではなく願望に支配され、集中力ではなく雑念に支配されます。結果、建設的な能率性が損なわれます。

最後に、上でも触れた、デシとライアンの研究『内発的モチベーションプロセスの実証的調査』やレッパーの研究『子供たちの内発的、外発的モチベーション:不要な社会的操作の有害な影響』で見られるように、パフォーマンス・ゴールの人は、失敗や、学習努力から、喜びや誇りといった内面的報酬を得ることができません(※10, 11)

対照的に、ラーニング・ゴールの人々にとって、同じ状況(困難や失敗)が、努力を加速させる要素になります。彼らにとって、努力とゴールの間に矛盾はありません。さらに、失敗や困難は、興味や決意の強化という情動的変化を生みます、それは集中力と能率性の向上をもたらします。最後に、努力から、喜びや誇りといった内面的報酬を得ることができるので、能力はどんどん進歩し、さらなる努力を呼び、能率をさらに加速させます。

3.5. ゴールがパターンを作るメカニズムまとめ

まとめると、ラーニング・ゴールの人とパフォーマンス・ゴールの人は、失敗や困難に対する、認知、情動、振る舞いのメカニズムが全く異なります。結果として、達成状況において、前者は高い粘り強さや能率を見せ、後者は逃避的反応(失敗や非を認めないなどの行動も含む)や能率の低下を見せます。

最終的にはパフォーマンス・ゴールの人は仮面が剥がれてしまいます。何らかの方法で、一時期成功をおさめたパフォーマンス・ゴールの人々のほとんとが、成功を維持することができず、晩節を汚すのは、このためです。彼らは、やがて、現実に能力がついていかなくなるのです。そして、自尊心を守るために「悪いのは自分ではない。悪いのは周りだ」と自分自身も欺くことになります。そうなると、まさに金の切れ目が縁の切れ目になります。

4. 何がゴールを形成するのか?

まとめると、パフォーマンス・ゴールは、能力のジャッジに焦点を当てており、そのために認知的プロセス、情動的プロセスが脆弱であり、それがやがて救いのない不適応的な行動パターンを助長します。その姿勢が、結果的に、自分自身を、あらゆる面で能率の低い人に貶めることになります。

一方で、ラーニング・ゴールは、能力を伸ばすことに焦点を当てており、チャレンジを受容し、困難に直面しても、粘り強い姿勢で取り組みます。その姿勢が、結果的に、自分自身を有能な人物にします。

それでは、何が、これらの異なるゴールを形成する要因なのでしょうか?その答えは、次の概念にあります。

  • 暗黙の知能観 “implicit theoris of intelligence”
  • 固定的知能感 “entity theories of intelligence”

これらについて、引き続き、『知能観とは(暗黙の知能観と固定的知能観))』にお進みください。

参考文献・脚注

  1. Elliott, E. S., & Dweck, C. S. (1988). Goals: An approach to motivation and achievement. Journal of Personality and Social Psychology, 54, 5-12.
  2. Janet Lowe, Michael Jordan Speaks: Lessons from the World’s Greatest Champion (New York: John Wiley, 1999), 29.
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  5. Leggett, E. L., & Dweck, C. S. (1986). Goals and inference rules: Sources of causal judgments. Manuscript submitted for publication.
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  7. Dweck, C. S., & Elliott, E. S. (1983). Achievement motivation. In P. H. Mussen (Gen. Ed.) & E. M. Hetherington (Vol. Ed.), Handbook of chiM psychology: 1Iol. IV. Social and personality development (pp. 643-691). New York: Wiley.
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  12. Ames, C., Ames, R., & Felker, D. W. (1977). Effects of competitive reward structure and valence of outcome on children’s achievement attributions. Journal of Educational Psychology, 69, 1-8.
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